フランスギャロから広報発表があり、正式にディープインパクトの凱旋門賞失格処分が下りました。
それを受けてJRAの記者会見が開かれ、詳しい経緯とそれぞれのコメントが発表されました。
ディープインパクトの薬物検出事案に対するフランスギャロによる処分の決定について(JRA)
詳しい内容はリンク先の通りですが、今回のポイントは
・9月半ばからディープが咳き込んでおり、フランスの医師から処方を受けて治療のために薬品の投与をしていたこと
・完全な原因究明は結局できず、推測ながらも寝藁や飼料等に事故で混入した薬物を摂取した可能性があること
・凱旋門賞での最終的な処分は「失格」、池江調教師には限度額の「罰金」。レース出走制限等、今後の競走への処分はなし(フランス国内)。JRAとしてもそれ以上の処分はなし。
・池江調教師が正式に過失を認めて処分受け入れを明言したこと結局真相ははっきりしないまま、失格という事実だけが残りました。
色々思うところはあります。ここから先は個人的な感想です。
正直、調査結果の途中にあるような「事故による薬物の飼料や寝藁への混入」、これはちょっと信じ難い。馬が口にしそうなものへの配慮は馬を扱う人間にとって基本中の基本であり「有り得ないミス」といってもいい。出国からレース出走まで、すべての物事をにまさに石橋を叩いて渡るがごとく慎重に、用意周到に進めてきたディープ陣営が、そんな初歩的なミスを果たして犯すだろうかという疑問。海外遠征慣れし、またJRAや社台を始め多方面からバックアップのあるこの遠征チームがフランスでの禁止薬物(馬の体内から生成されない成分=全ての化学薬品を禁止)について知らないはずがなく、それを検出される可能性について、最大限の注意を払っていただろうことは容易に想像できる。医師に処方されて治療のためにわざわざ投与していたならなおさら。
またドーピング疑惑については調教師も断固否定していましたが、もっと有り得ない。イプラトロピウムという薬物が競走能力にどれだけ劇的な影響を与えるか知りませんが、とてもじゃないけれど多大なリスクに見合うはずがありません。上記のように、陣営が薬物検出の可能性を理解していなかったとは考えがたく、またそれが発覚したときの損失についても当然わかっていたと思われます。これだけの名声を得てきた陣営にとって欲しいのは更なる名声であり、目先の金ではない。ことさら無用のリスクは排除するわけで、全てを無に帰すリスクを負ってまでのドーピング行為に走るというのは全く理にかなわない。簡単に言ってしまえばそういうことになります。
どちらの可能性も決定的になにかが欠けていて、決め手となる証拠もないので結局、「レース後の検体から薬物が検出された」という事実のみが効力を持ち、最終的な判断が下ったといったところでしょうか。池江調教師をはじめとした関係者のさらなる言い分もあったかもしれませんが、そういう流れを受けて、事実だけを受け止めなければならないということでの例の「過失」発言が出たかと思います。ここでゴネたところでもはや何もでてこないことは明白ですし。
一つ気になったのは、以前から一部報道でもコメントされていましたが「ディープが咳の治療を行っていた」という事実。もちろんレース前まではそのような報道はいっさいありませんでした、箝口令もあったかもしれませんが、文章を読むと、9月21日(木)〜9月25日(月)の5日間投与したとあります。つまりレースの1週間前まで禁止薬物の投与治療が続けられていたということです。体外に薬物が完全に抜けるまでの期間を考えると一応セーフティなラインとはいえ、結構ギリギリまで使っていたんだなぁと。軽い症状ならわざわざ危険を伴う治療は行わないでしょうから、それなりに症状があったと考えるべきでしょう。環境が変わって風邪でもひいたか?
もしかしたら真実はもっと別のところにあるのかもしれないし、あるいは、上の予想が外れて陣営のケアレスミス、あるいは・・・。ただ、とにかく残ったのは「失格」という事実、そしてそのことが与える影響は計り知れないということ。世界中の競馬関係者にディープインパクトという名前と凱旋門賞失格の汚名を晒すことになってしまった。さらには、国内の競馬をあまり知らない人達にも「ディープインパクト」「禁止薬物」「失格」という単語だけを印象づけてしまった。これについてはJRAが散々無駄に煽り続けたツケでもあるのですが、それにしても競馬のイメージダウンは凄まじいもの。もちろん一番ショックを受けているのは他ならぬ当事者の陣営でしょう。「英雄」から「疑惑の英雄」に、ディープインパクト自身がどれだけ素晴らしいサラブレッドであっても周りの人間の問題によって、その馬の印象や評価価値が豹変してしまったということは恐ろしいことです。
僕自身、ディープインパクトという馬は、純粋に素晴らしいサラブレッドだという確信を持っています。でも決して覆らない事実の前に、ただ馬としてできることは、残された限りある活躍の舞台で最大限の走りを見せることだけ。今回の真相がどうあれ、残り2戦となったディープインパクトのレース、そこでの走りは今まで以上にいろいろな意味で注目を浴びることになります。その2戦を経て引退したディープを後の人間がどう評するか、そればかりはまだわかりませんがこの「騒動」が収まった頃にはっきりしてくるでしょう。どうせ騒がしいんだから、ハーツクライと素晴らしい勝負を演じてほしいと願うばかりです。
※11/17追記昨日のJRA公式だけではわからなかった会見の詳しいやり取りを読んでいくつか分かったこと、僕の推論の間違いがありましたので一応補足。
http://www.sanspo.com/keiba/top/ke200611/ke2006111700.htmlまず、
池江調教師が現地の禁止薬物を把握していなかったこと。また
寝藁はパリアス厩舎からの支給だったので替えるのがためらわれ、結局こまめに交換しなかったこと。これらは非常に驚きました、なんであれだけ色々やっていた陣営にこんな基本的な部分でミスを犯したのか。いかに日本と環境が違ったとはいえ、関係者の認識の甘さが今回の事態を招いたのは明らかです。お粗末というほかないでしょう。いくら馬がレベルアップしても関わる人間がこれでは3流と言われてもしかたがない。日本の競馬関係者にはこの取り返しの出来ないミスを教訓に、薬物を含めた公正競馬への意識の向上が望まれます。
あと細かいところでは
イプラトロピウムは通常24時間以内に代謝されるということか。1週前に使用停止なら本来全く問題なかったということですね。