無敗の三冠馬ディープインパクトがついに敗れた・・・
中山に詰めかけた人々も、おそらく全国でテレビをみて観戦していた多くの人たちも、その事実に落胆し、ため息を吐いたことでしょう。
レース直後の現場の雰囲気は、何とも言えない脱力感に覆われ、とても勝ち馬を賞賛するという雰囲気ではなかったのですが、僕自身はついに自信の能力を証明し栄冠をつかんだハーツクライとその鞍上ルメール騎手にもっと拍手を、という気分でした。みんなの期待した「ハッピーエンド」ではなかったのかもしれませんが、レースとしては最高のクライマックスだったと思います。
◆有馬記念(GI)
有馬記念予想の際、「1コーナーまでの各馬の位置取りがポイント」と書きましたが、まさにその通り、最初のコーナーまでのポジション取りが最終的な結果に大きく影響を与えたと思います。ディープインパクトはスタート直後に手綱を引いて後方に下げました、それに対し、ルメール鞍上のハーツクライは手綱を押して3番手というこれまでになく前に位置取ります。ゼンノロブロイはスタート直後に内の2頭のごちゃつきにあおられ馬体接触、リズムを崩し後方へ。デルタブルースもスタートで煽り、直後に外のオースミハルカに被せられる格好で結局後方から。リンカーンは流石横山典弘、好スタートを決めると第1コーナーでは好位の外目につけ2つ目のコーナーの際に自然な流れでインに切れ込み、外枠という不利を見事になくし、好位の内内という絶好のポジションを確保しました。
少々予想外だったのは、タップダンスシチーが単騎で行くもそれほどハイペースにならなかったということ。オースミハルカが競らないというのは予想通りでしたが、意外だったのはあれだけ元気のあったコスモバルクがピタリと折り合ってしまったこと。それによって、タップが3、4馬身ほど離してややスローの逃げを打つということに。こうなってくると、期せずして後方からの競馬になったゼンノロブロイ・デルタブルースの二騎にとっては非常に不利。結局2頭はスタート直後や4コーナーのごちゃつきの影響も受け末脚不発、不完全燃焼のまま惨敗という形になってしまいました。ただ、ディープインパクトにしてみればこのスローペースは歓迎で、自分から外を回って早め進出でまくれば、前の馬は苦しくなるし、自分は何度も経験したスローからの上がりの勝負に持ち込み後続共々完封できる・・・、はずだったのですが、ひとつの大きな誤算がありました。それは、「自分より同等、もしくはそれ以上の力を持った馬が先行集団の中にいた」ということ。すなわち、ハーツクライがこれまでにない、先行策で3番手につけていたということです。3コーナーから進出し、4コーナーで先頭にに並びかけるというのはまさにシナリオどおりの競馬、しかし、先に仕掛けて動いたハーツクライの脚は全く衰えることなく、坂を上がってもじわじわ差を詰めることしかできず、ついには半馬身差届かないままディープインパクトは敗れました。ずっとインで脚を溜め、機会をうかがっていたリンカーンも直線良く伸びよく頑張るも3着まで。
勝ったハーツクライは、この秋の3戦、常に重い印を打ってきた馬ですが、やっと念願のタイトル奪取となりました。中山ではよほど巧く乗らないと勝ちきることは難しいと判断して▲の評価としましたが、仮にディープインパクトを負かすことが出来るのは、今回のメンバーではハーツクライをおいて他にないと思っていました。それは、やはりジャパンカップでの走りが全て。宝塚記念で先着したゼンノロブロイに再び競り勝ち、日本馬最先着でレコードの2着。あのレースこそ、ハーツクライが現役古馬最強馬であること証明したレースでした。橋口師曰く、夏を越してさらに成長し馬が変わったと、それは馬体チェックでも散々触れてきました。馬体に幅が出て、以前の華奢な印象はなくなり坂路でも常にパワフルな動きで、まったく別馬のように逞しく成長したと。天皇賞こそスローペースに嵌って結果が伴わなかったのですが、デキ自体はここ3戦常に最高のものだったように思います。
能力は最強、でも不器用で最後の末脚勝負に徹するしかない。問題はこの中山でどう乗るのか、その難題に意外とも言える答えを用意してくれたルメール騎手。まさかあのハーツクライがスタート直後に3番手につけるなんて、ほとんどの人が想像しなかったでしょう。ただ、ルメール騎手はこの秋2戦も特に「追い込み」という型にこだわって乗っていたわけではなく、馬の能力を引き出すということを大前提にして乗っていたと思います。「道中しっかり折り合って溜めれば、最後は必ずいい伸びを見せてくれる」、有馬前のインタビュー記事で、確かそんなようなことを言っていました。何度もVTRを見て研究し、中山では先行しないと勝つことが出来ないと言う結論に達したとのことですが、型にはめず自然な感触で秋2戦を戦ってきたルメール騎手だからこそ、先行しても折り合うことが出来るという自信を持ち、その作戦を実行できたように思えます。結果、スローに近い流れで巧く折り合い、直線迫るディープより先に仕掛けて押し切るという最高の騎乗で栄冠を手にしました。古馬で一番強かった馬が、強い競馬で勝利をモノにすることが出来た、その瞬間は非常に輝かしいものです。一つ付け加えるなら、今回の勝利を生み出した隠れたファインプレーは、橋口調教師の「乗り方は全て鞍上に任す」という信頼の姿勢、これに尽きると思います。
一方初めて敗れたディープインパクト。武豊騎手は「今日は飛ぶような走りがみられなかった、敗因はわからない」と首をひねってうなだれてたということですが、個人的には今回の敗戦にはかなり納得するところがあり、敗因ははっきりしていると思います。状態が完璧ではなかった説もありますが、中間の追い切りの動きは絶好とはいわないまでもまずまず、馬体自体もいい仕上がりで「体調が悪かった」といえるものではなかったとおもいます。事実最後に息切れしてバテたというわけではありません。ならばなぜ最後に差しきることができなかったのか?「ディープの死角」のエントリーで触れたとおり、中山競馬場ではディープインパクト最大の武器、最後の爆発的末脚が封印されてしまいます。今回、レースの上がりが35.5秒に対して、ディープの上がりは34.6秒、上がり2位の馬達が34.9秒なので、その差は0.3秒。弥生賞の時よりは上がりに差がついているぐらいで、中山としては上出来の時計。これで差しきれなかったのは前で競馬したハーツクライがキッチリ伸びたからでしょう。確かに、VTRを見ると坂の直前まではいつもの勢いがあるのに、坂にさしかかったとたん、跳びが小さくなりハーツクライと脚が同じになってしまいます。坂が終わったところで再び伸びを見せてなんとか差を詰めようとしますが、時既に遅し。中山で他馬に対して上がりの差がつけられなかったのは、直線の短いコース形態もさることながら、ディープ自身、急坂ではそれほど伸びない(他馬と同様の伸び)といういわば欠点にも原因があったのかもしれません。武豊騎手が「飛ばなかった」と表現したのはそういうことではないでしょうか。弥生賞の時も坂を上りきってからもうひと伸びして最後交わしていましたが、まさにあれこそ中山でのディープの姿だったということでしょう。最後方から常に外を回って、一度も揉まれることなく直線でも大外の競馬。確かに、これまではそれで通用していましたが今回のように前に強い馬がいて流れがスローになれば当然こんな結果も待っています。これまで散々チャンスがあったにもかかわらずインで揉まれる競馬を体験させず、常に大事に大事に競馬をしてきたツケがまわってきたということでしょう。内々ついて中団からの競馬ならばもっと差がなく結果が違っていたかも知れません、そういう競馬が出来ないという弱点が今回の敗戦につながったという意味では、これはまさに力負けといえるでしょう。
武豊騎手の「最後伸びなかったから、力負けではない、悔しい」というコメントは勝ったハーツクライ陣営に対してあまりに失礼ですし、もし本当に中山でもあの位置から「上がり33秒台」でスパッと差しきれるとでも考えていたなら、それこそ鞍上の考え方に疑問を感じます。あの展開では何度やっても差しきるのは難しかったでしょう。この難しいコースでどうやったら勝てるか考え抜いて乗ったルメール騎手と横山典弘騎手に対して、このコースでも今まで通りに乗って力さえ出せば勝てると思っていた武豊騎手、今回はそのバカ正直さに少々失望しました。池江調教師は「現時点では古馬との差」と潔く負けを認めていましたし、鞍上も現実を受け止めて頂きたいと切に願います。
対抗リンカーンは上記のとおり、横山典弘騎手の最高の捌きで、外枠だったにも関わらず先団のインという最高のポジションでレースを進めました。最終コーナーでハーツクライの直後につけ同時に仕掛けて上がっていきましたが、最後に内で粘るコスモバルクが内に寄れ、先に抜けたハーツクライと板挟みに合いブレーキがかかる不利もあってやや離された3着となりましたが、あれがなければもっときわどく前に迫っていたでしょう。やはり中山のようにコーナーの多い競馬場は合っていますし鞍上も最高に近い内容の競馬をしてくれました。ジャパンカップでは最後にロブロイに寄られる不利もあって僅差の4着でしたが、音無調教師曰く、この秋3戦はずっと調子が良かったとのことで、確かに天皇賞はスローペースで不発だっただけでそれ以外はかなりの成績を残しており、馬体にも張りがあってパドックでも輝いており、一連のデキをキープしていれば自然と結果は伴ってくるんだろうなと思っていました。今回も前2頭との比較ではやはり少し及びませんでしたが、ハーツクライも惜しい競馬を続けてチャンスをものにしたように、この馬も良い状態で挑戦を続ければいずれチャンスが巡ってくると思います。
ゼンノロブロイは様々な不利も重なり、最後の競馬で初めて掲示板を外すという最悪の結果。ただ、仮にアクシデントが無かったとしても以前のような伸びは期待できなかったように思います、プラス12キロの馬体重で多少太いということはありましたが、中間の運動量などを考えれば、むしろ状態は良く、パドックでも久々に良い張りを見せていました。一昨年の有馬記念も太め残りでリンカーンに遅れを取りましたが、奇しくも同じ結果となってしまいました。引退レースで万全の仕上げをした陣営としては不満の残る結果だったと思いますが、もう馬の方には力が残っていなかったのかも知れません。
デルタブルースはパドックでは一番良く見せ、ほんの少し太めに映る体型でも張りと毛づやは断然、堂々としていて3連単の2着に買わなかったことを後悔しました。ただ、スタートの後手と4コーナーでの不利、外枠だったことも災いして先行することができずに末脚不発。11着というのは走らなすぎですし、上がりも平凡でやはりこの馬にとってはスローな流れになってしまったことが一番影響したのではないでしょうか。ディープが外から上がってきた時に一緒に上がっていけなかったのは、反応の差というかペース適正の差でもあるかなと思います。馬自体は成長していますし、角居厩舎の仕上げのすごさを再確認させられたという思いで、結果が伴わなければ意味がないですが、来年この馬向きの流れになれば再びGIでも怖い一頭になりそうです。
大健闘した4着コスモバルク、馬体チェックでは復調気配と評し、中間も元気すぎて馬体が絞れず困っていたようですが、パドックでのプラス6キロは明らかに太め残りで、ただ、体調だけは本当に良さそうで肌もつやつやしていました。幾らなんでもこの仕上がりでは・・・と思っていたら盟友五十嵐冬樹騎手と折り合いピタリで、最後は多少苦しくなるも見せ場たっぷりの4着。あの流れで折り合いがついたこと自体が凄いですが、あの太めでよくも走ったなぁと。結果論ですがこの馬の場合仕上げ云々よりも元気があるかどうかということが一番重要なのではないでしょうか。五十嵐騎手との久々のコンビ復活で、馬の行く気にまかせて好きなように乗らせて貰えたというのも大きいと思います。やはり競走能力は高いとあらためて証明することができました。バルクが元気だと競馬も盛り上がる気がします、是非とも来年も頑張ってほしいですね。
引退レースとなったタップダンスシチーは、果敢に先行し、単騎で道中はスロー、途中一度速くしたりと哲三騎手曰く「らしい」競馬ができたとのことですが、如何せん、競馬自体が小さかった。やはりジャパンカップで走りすぎた分、今回の余力はあまりなかったのではないでしょうか。全盛期のタップなら3コーナーでもっと引き離しに掛かることが出来たはずです。ただ、最後までその存在感をレースに示すことができたという点では個性派らしさを十分発揮しました。当日の引退式でも若い姿を見せていて、まだまだ元気な8歳馬、本当にお疲れ様でした。
結局馬券は、▲→◎→○で決着し3連単はディープの頭固定だったので全てダメでしたが、保険をかけた3連複のフォーメーションをキッチリ取ってなんとかプラスに持ち込むことができました・・・、ちょっとせこいかな?重い印の3頭がそのまま上位に来てくれたことは素直に喜びたいと思います。個人的には、今回の結果を受けて来年の春の天皇賞が非常に楽しみになりました。ハーツクライとディープインパクト、それに割ってはいるデルタブルースにスズカマンボとリンカーン、これまで引っ張ってきた2頭のGIホースが引退しますが、今回のレースで見事に世代交代を果たした若い馬達が来年の競馬を担っていってくれると思います。
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その他のブログで様々なとらえ方で今回の回顧記事を載せられていますので比較してみるとおもしろいと思います。
・ 【有馬記念回顧】無敗という呪縛に負けたディープインパクト(Brain Squall)
・結局は己との戦いになったディープインパクト(Pillows in the Water)
・伝説第二章 "空飛ぶ英雄"の軛から放たれて(馬券日記オケラセラ)
・「負けてはいけない馬」など存在しない(有馬記念)(Racing Blog2005)
・有馬記念・回顧 - それぞれの夢、それぞれの結末(気の向くままに思うまま)
・有馬記念回顧【血統フェスティバル】
・有馬記念回顧(1)(うまうまライフ)
・ディープインパクトの敗因−中山のトラックバイアス(あさ◎コラム)



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